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主に、旅の炭水化物

各地、食風景の点描

薪パン ~カイセリ

トルコ

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トルコの中部・カイセリ――冬。

早朝、バスで到着すると、既に雪が、道路を、狭い路地を、塀を、建物を、街路樹を――町を占拠していた。

ボコボコとした白い大地を乗り越え、踏みしめながら前へと進むも、舞い落ちてくる雪と霧で数メートル先が見えない。町中心部だというのに遭難状態に陥りながら彷徨っていると、温かな明かりが目に入り、そこにすがりつくよう戸を開けた。早朝から開いているといえば、やはり「フルン」――パン屋である。

容赦ない冷気に晒されていた頬に、湿り気のある温かい手が押し当てられたようだ。自然にはない、温かさ。その優しさに、ネジが一気に抜かれ、フニャッと泣けてきてしまう。

それから滞在中、毎日そこを訪ね、パンで暖を取っていた。

 

窯の中では、赤々と薪の火が燃えている。

それに横付けするように置かれた成形台の上には、ラグビーボール大のパン生地がいくつも待機していた。エプロンをつけた髭おじさんが一つを取り、両手の指で、上からトントンと押し付けるようにして伸ばしてゆく。やがて、五、六才の子供の身長ほどにも広がったそれを、両手で抱きかかえるように巨大な木ベラの上に寝かせたら、その柄を持ち、窯の中へとスッと差し入れて、うまく生地を置き去りにする。

 一人で一枚食い切るのに、何食分となるのだろう――

…なんて、もの欲しそうな顔が分かり易かったのか、「食べてみてよ」と、その焼き立てを割ってくれた。

ガッチリとした皮。ほわわわ…とその白い断面から漂う、湯気と湿り気。柔らかい。が、引きもちゃんとあるようだ。

口に入れると、その香ばしさに浮かんだのは「きな粉」である。

アッツアツが、凍えきった体の芯に火を灯す。頬が緩み、ほてり、オレンジ色に染め上がってゆくのがわかる。

 

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まるで、「薪」。ソレを握ってスポーツチャンバラでもできそうな、長細い形とは珍しい。

これは配達用のパンだという。ついて行ってみると、そこはカイセリ名物・サラミの専門店「パストゥルマ」だった。

店頭に大小各種吊り下げられ、並べられている「サラミの塊」だけではなく、それを薄くスライスしたものを、この薪パンの側面に切込みを入れて数枚挟みこみ、軽食として売るのだという。パン一本分でなくとも、お客の注文に応じて、「薪」は短く切ってもらえる。

名物には興味があれども、どっしりズッシリとしたサラミの塊一本買うのは、一人モンにとって決断がいるが、それならば手を出しやすい。買いやすい。

とはいえ、フルンのよしみによるタップリの味見で既に満たされ、買う気はもはや落ち着いてしまったけれど。