主に、旅の炭水化物

各地、食風景の点描

たこ焼き姉妹 ~ロンスエン・ベトナム 

「これ、食べてみて」 無垢、とでも言い表せる柔らかい乳白色。ちょっと触ればフルフルと揺れ、その表面から中身があふれ出てしまいそうだ。 親指と人差し指で作った「オーケー」よりもひとまわり大きいか。オセロ玉二つ分程度の円形で、横から見るとピンポ…

  吟味と葛藤 ~サワンナケートのカオチー⑤

ヒトが仕事しているって中、一人だけイスに座るっていうのは憚られるのだが、しかし座んないと、目を光らせて「座れっ!」――よけい気を遣わせてしまうらしい。 作業の合間に飲む水を、私にもすすめることを忘れない。あぁ、私はただ見てるだけなのに…と申し…

真面目食堂 ~ソクチャン・ベトナム

ソクチャンは、ベトナム南部のメコンデルタ地域にある町の一つ。サイゴンから南西に車で四時間半~五時間、約220キロの距離にある。 ……と紹介するのが簡単だけれども、メコンデルタ一帯を巡っていた私は、そのうちのミトー(サイゴンから南西約75キロ)とい…

飴玉車掌 ~メコンデルタ・ベトナム

バスと車掌 飴玉抱えて えいっと、座席の下へ放ったのは、大きなビニール袋。――に入っているのは、キュッと括られた、数本の水入りペットボトル。 …少々では破裂せんだろうが、投げなくてもいいのに。人の荷物をこんな風に、家畜の餌が入った頭陀袋が如く扱…

インレーの魔術師 ~ミャンマー・ニャウンシュエ

見知らぬ地で、食べ物を見つけてそして口にした、ということについて改めて振り返る。何気なくやっていたそのことが、なんと貴重だったことだろう。 あたりまえだが、「食べ物」それは自然にただ「ある」のではなく、在らしめる――作り出す人々がいるからこそ…

カズベキ村の道案内 ~グルジア(ジョージア)

「犬コワイ」私 カズベキ村 「犬コワイ」私 ">うーん…。ことごとく、埋めるなぁ…。 道を囲む斜面、苔のように短く生える草の合間を、左右の前足でかいてモロモロと崩してゆく。と、「穴」とまではいかない、少々の窪みが出来たその黒い土の中に、顔を突っ込…

 ワンタンの悟り ~タイ・カンチャナブリー

「ダメダメ、三日しかもたないよ」 と、レックさんは即座に否定した。何を馬鹿なことを――とまでは言わず、困ったように笑うというソフトな反応をしながら、またひとつ、黄色い皮をぺランと手の上にのせる。 表情も、話す調子も何ら普段通りのまま、その手元…

肉を洗う  ~バンメトート「お呼ばれ」記

「おいしい」。 告げると、「ソレじゃなくてコレ」。ハーさんはこちらの取り皿に、プラスチック的に艶めく太い、一番大きな肉切れをドカンと載せる。この空心菜炒めを褒めちぎりたいコチラの心、分かって貰いたいが、「定番中の定番」の総菜を褒めて貰っても…

国境一泊・バスの旅  ~中国からキルギスタンへ

た、…食べたい。 「いやあ、ちょっとバスに酔っちゃって、気分が悪いし…」 と言った手前、しかしガンガンつつくわけにもいくまいが…。 「食べないようにしよう」と決めていた一番の理由は、ここでは絶対腹を壊したくないというか、「できるだけトイレには行…

ご飯食いの達人~カンボジア

カンボジア――ご飯が旨いこと半端ない、ところ。 いや、「ご飯を食べる」ことに長けた、というべきなのか、どうか。とにかくご飯とオカズの「バランス」というものが、半端なくスバラシイ。 長年括りっぱなしで錆びついたチェーンのように、がんじがらめの抜…

艶々米うどん ~ベトナム・ロンスェン

「米うどん」。…とは私が勝手に呼んでいるんだけれども、小丼に、その艶肌をあらわに晒して浸るメン。 「ここで食べよう」――決め手はコレだ。 その上に抱えるのは、ゴロゴロとした濃淡違えた茶色っぽい類の物。まず「お揚げ」が分かる。もちろん豆腐のアレだ…

遠野の餅③ ~搗いてこそ餅

遠野の餅① ~胡桃ダレをつけて - 主に、旅の炭水化物 遠野の餅② ~胡桃を擦る - 主に、旅の炭水化物 正月の雑煮から始まって、それから約三か月間は毎日それが朝食である。ウチは両親の実家が鳥取であるから、雑煮はかの地の定番「小豆雑煮」・つまり俗に言…

山麓のイワシ盛り~トルコ・ドーバヤズット

ベージュの地に、意味ありげな幾何学模様――おうちの絨毯はやはりいい、と、すっかり座り込んだその感触をズボン越しに受け止めながら、湯船に浸かる如くのホンワリ気分で、薄ピンク色の壁、雪で白光りする窓の方などを眺めている。 向かいに座る男の子が齧っ…

シューシのケバブ ~ナゴルノ・カラバフ

再会(2013年) ケバブの家 現在 (2020年) シューシのコーヒー ~ナゴルノ・カラバフ - 主に、旅の炭水化物 再会(2013年) グチュ、グチュ、と、洗面器にほどほど入ったミンチ肉を、握りつぶすように、そして縁から中へと折るように捏ねたら、片掌に持て…

シューシのコーヒー  ~ナゴルノ・カラバフ

コーヒーの味 紛争再燃 シューシを歩く in 2008 カフェ ~魔人と、妖精 コーヒーの味 華奢な少女を思わせる、細身のカップの中には焦げ茶色のコーヒーが湛え、その縁に微細な泡立ちをべっとりつけている。思い浮かんだのは、ミルクを飲んだ時に出来る、唇ま…

傘とラペイエ ~ヤンゴン・ミャンマー

いた…ッ! ホッとした。もう会えないかと思った…と、口が緩んでくる。マッチョさんもまた、こちらに気づいたようで、即座に立ち上がった。目を見開いている。こちらのことを、覚えていてくれていると分かる。…が、ん? なんだか苦笑いというか、「モゥ…」と…

「朝食は如何?」~ディヤルバクル・トルコ

並ぶ並ぶ並ぶ…。 黄、白、赤、紺 、茶…。とりどりがそれぞれ、カレー用大の器の上に載り、きゅっとかき集めたよう所狭しと。 宴会だろうか?…目が、パチパチする。 壮大な食卓――いや、「卓」ではない。横に敷いた絨毯の上に、テーブルクロス…いやテーブルじ…

幻のナムパクノー ~サワンナケート・ラオス

ンン 葉っぱ――「パクノー」ひと掴みを、ミキサーの中へ。…と、足りないのか、もう少し。 ミキサーというのは、デパ地下や地下街なんかで、フレッシュジュース用に苺とかバナナとか入れてガガガと回す、ジューススタンドに数台あるアレである。…ってここはま…

「ヤグレ」一日の始まり ~マラテヤ・トルコ

一瞬、時が止まったような沈黙があり、そしてその口から出されたのは意外な言葉――私の名前だ。 入口からおそるおそる足を踏み入れた、そのたった一歩で、立ち尽くしてしまった。 と同時に釘付けになったのは、この空間に踏み入る前からムンムンと漂っていた…

コチョリーの朝 ~インド・ニューデリー

「インドの朝は遅い。」 朝六時などという時間、市場でシャキシャキしたやりとりが既に軌道に乗っているタイやベトナムなどの東南アジアを旅することが殆どだった身としては、ただただそう思い、唯一賑わっているチャイ屋で時間を潰し、インドで早起きはやめ…

茹で汁で一服 ~中国・青島

2002年。初めての中国は、下関港から海を渡り、山東省・青島に始まった。 五月の霞む薄暗い空のもと、歩く。ただ歩く。 国境を越えた直後とか、知らない世界に入ろうとするときとは、モヤモヤしたものをなんとかしたいと、たいてい焦っている気がする。…

まぼろしのピン・ムー ~タイ・チェンライ

そりゃ「小指」だ。 まぁよく刺したなぁ、と、感心するような呆れてしまうような、ちっちゃい肉片。あんまりにムリヤリだろう。こんなのは串に通すよりも、中華鍋で全部を一気にザっと炒め、味付けした方が手っ取り早いだろうに。 あまりにも小さい。可愛ら…

戸惑いのソムタム ~タイ・コラート

「サラダ」といえば、添え物。 とはいえもちろん、エビやイカ、茹でたブタ肉や蒸し鶏などのタンパク質を混ぜ込んだ、主菜の位置に持って来れないこともない「おかずサラダ」「ボリュームサラダ」と紹介されるレシピも珍しくないことは知っているけど、たいて…

第一歩は「ヘン」~タイ・バンコク  

写真はタイ東北部コンケンという町における麺屋の、ダシが非常に旨い、お気に入り「センミー・ナーム」。「センミー」は米製の細麺、「ナーム」は汁に浸かることを示す。 話はでも実は、写真とは関係ない。汁の無い麺、「ヘン」についてだ。 もはや行きつけ…

毎晩ティータイム ~英国・ボーンマス

チョコレート・ファッジ・ケーキ (ケーキ生地用) 卵…二個 ミルク…一カップ ブランウンシュガー…300グラム ココア…スプーン4杯 小麦粉…360グラム ベーキングソーダ…スプーン一杯 〈アイシング用〉 バター…90グラム ココア…スプーン4杯 ミルク…スプーン6杯…

豆乳おばさんとドーナッツ②~バンコク

豆乳おばさんとドーナッツ①~バンコク 触らずとも手の指をぬめらせてくる、ベットベトそうな見た目。大きさは、「メンコ」…で分かりづらければ、「ポタポ○焼き」などの煎餅ぐらい。色は「鶏の唐揚げ」のような茶褐色で、荒れ肌を晒している。丸いといっても…

豆乳おばさんとドーナッツ①~バンコク

前をじっ、…と、見ている。 バンコクの、とある交差点の近くにて、丸椅子に座り、低くもなく高くもない、肘を置くのに丁度いい高さのテーブルを前に、横断歩道を行き交う人や、左右から横切る人を眺めている。 時折、テーブル傍らの鍋のふたを開けて覗き込ん…

ヘラを制す ~ディヤルバクル ④

「トントン」おめかしされ、ドキドキとその時を待つ生地に、向かいからニョッと伸びてくる大きな腕――Fさんである。 眠っている子供を抱きかかえるように、両手を生地の下に差し入れて、台からさらってゆく。宙で生地が、だらんと素直にしだれるので、素早く…

成形演奏会 ~ ディヤルバクル③

「窯」に隣接された、タタミ一枚程の成形用台の上には、手粉がたっぷりと振りまかれている。一見、おが屑を連想するその薄茶色は、「ふすま」のみなのだろう。つまり、小麦を小麦粉へと製粉する際に、白い粉となる胚乳から分離される「外皮」部分である。こ…

トルファンのナン ~新彊ウイグル自治区

「ナンに興味があります。」…ということを言いたげに、ジッと立っていた。 ハンチング帽をかぶって長身、その目鼻顔立ち…。誰にといえばもうこの人しか思い浮かばない、「いか○や長介」そっくりのおじさんは、タンドールの窯仕事に没頭していると思いきや、…